【高尚の木】イチイ

イチイ

データ
学名Taxus cuspidata
別名日本: 一位(イチイ)、アララギ、オンコ、シャクノキ
英名: Japanese yew(ジャパニーズ・ユー)
分類針葉樹
科・属イチイ科イチイ属
原産国日本
気乾比重0.55
強度やや硬い
ヤンカ硬度
レッドリスト非絶滅種

辺材は白色で心材は紅褐色、境界は明瞭に分かれています。

年輪は狭く詰まっており、緻密。
淡い橙色から時間の経過とともに飴色に変化します。

特徴的な香りはありません。

概要

日本の風景を映す、イチイの魅力

イチイの盆栽
イチイの実をついばむヤマガラ

イチイの原産国と特徴

イチイは日本を中心に、ロシア東部、中国東北部に分布している常緑針葉樹です。樹高は15メートル、幹の直径は最大で1メートルにまで成長します。しかし、その成長速度は非常に遅く、幹の径が30センチメートルに達するまでに約100年の歳月を要します。

葉は細長い羽状に互生しています。4月頃には小さな花を咲かせ、秋には7ミリメートルほどの甘く赤い実をつけます(雌株のみ)。この実は食用になりますが、果肉以外の部分(種、葉、樹皮)には強い毒性があるため注意が必要です。​

天然イチイ材の柔軟性と弾力性

天然のイチイの木材は柔軟で弾力性があり、加工がしやすい特性を持っています。このため、古くから仏壇、和家具、床柱、弓、櫛、茶筒など多様な用途で使用されてきました。特に彫刻材としては最高級とされ、アイヌの熊の木彫りや岐阜高山の一位一刀彫などが知られています​。植林されたイチイ材は天然のものに比べ、やや柔らかい傾向にあります。

永遠の命の象徴

神事に使用される笏

仁徳天皇と「一位」の名の由来

イチイはその特性から「長寿」や「不死」を象徴する神聖な木とされ、神社や寺院の境内に植えられるほか、古来より仏教や神道の儀式で使用されてきました。さる古墳時代、仁徳天皇がこの木で作らせた笏(しゃく)の美しさに感動し、「正一位」の官位を授けたことから「イチイ」の名が付いたという逸話があります。この名から、「学業成就」や「商売繁盛」の縁起物としても親しまれています。

フランスの墓地を見守る壮大なイチイの巨木

ヨーロッパイチイ (Taxus baccata) について

日本以外の地域でもイチイの木は、しばしば神話や伝説に登場します。ユー (Yew)と呼ばれるヨーロッパイチイ (Taxus baccata)は、日本と似た理由でヨーロッパの教会や墓地に植えられています。死者の魂を守ると信じられ、埋葬の儀式にも使用されました。
また古代ローマでは、その強い毒性から実際に毒薬として扱われることもありました。これらは、イチイの持つ死と再生の象徴性を強く表しています。

このように、イチイの木は古来より世界中の文化で神聖視されてきました。その美しさと力強さは歴史と伝統を繋ぐ重要な存在として、これからも私たちの生活に根付いていくことでしょう。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

齋藤 翼のアバター 齋藤 翼 木工家

独学で技術を磨いた木工家。
培った知識と経験をもとに、銘木や製作のノウハウをわかりやすくお伝えします。

木軸ペン工房 金杢犀の代表
本と映画とアンティーク家具が好き