フィレンツェ発・木象嵌アートの新境地:欠点を魅力に変えるZOUGANISTA展

「il mondo dell’intarsio/
イタリア木象嵌の世界2024」

昨日、品川区の「館 游彩/YAKATA YUSAI」で開催されている、木象嵌職人・ZOUGANISTAさんの個展に足を運びました。毎年フィレンツェの工房で製作された作品を日本に持ち帰り、一度きりの展示を行うこの試みには、今年も私の想像を超えた美しさと発想に満ちていました。今回は、その感動を簡単にご紹介したいと思います。

木象嵌(もくぞうがん)とは

木象嵌とは、異なる色味や質感を持つ木片を組み合わせ、絵画のような模様や図柄を描き出す伝統的な木工技法です。素材そのものが織り成す色彩や木目を生かし、まるで絵画を描くように木片をはめ込むことで、平面上に奥行きや表情が生まれます。

今回の展示では、その木象嵌技術がさらに拡張され、傷や穴、経年変化といった本来“欠点”とされる部分が、むしろ作品の核心をなす新たな美として表現されていました。

素材の“欠点”が生む輝き

大聖堂の背景に浮かぶ満月と星々

今回の展示で強く印象に残ったのは、虫食いやピンホールなど、木材の欠点とみなされる部分をあえて残し、それどころか積極的に活かした表現手法です。
通常なら避けられる穴や傷に真鍮を埋め込み、それらを星空のような輝きに変えてしまう。
その大胆な発想に触れた瞬間、私の中で素材への価値観がガラリと変わりました。

ひとつひとつに径の異なる真鍮の星が入っている。

1700年代のアンティーク扉と風神雷神─東西が邂逅する物語

とりわけ目を奪われたのは、1700年代の古い扉を用いた作品。右端の朽ちた部分はあえて修復を施さず、膠で留めることで“時間の痕跡”として尊重する。その扉には、同じ時代に日本で描かれた風神雷神が象嵌され、異なる文化の時空がここで交差します。
妻とともにこの話を聞きながら、古い木材と東洋の伝統モチーフが出会う“味わい”に思わず胸が熱くなりました。

木と革の縫製

さらに、小物作品も目を惹きました。蛇の背を思わせる独特の木目を持つ希少なスネークウッドで作られたカードケースは、革と木の縫製技術が織りなす色気に満ちていました。
一見、小さなアイテムに込められた圧倒的な存在感と質感は、一目で心を奪う力を持っています。

欠点を受け入れ、新たな価値を生み出す

一年ぶりに再会したZOUGANISTAさんの作品からは、通常は取り除くべきとされる傷跡や朽ちた痕跡、経年変化すらも“新たな表情”として活かす鋭い美意識を感じました。
木工といえば、傷のない完璧な素材を求めがちですが、欠点も物語の一部であることを教えてくれる作品たちは、私たちの創作観や価値観を揺さぶり、視野を広げてくれます。

展示情報

この特別な展示は、12月6日(金)〜12月8日(日)まで開催され、11:00〜19:00(最終日は18:00まで)にご覧いただけます。もし興味があれば、ぜひ足を運んでみてください。

朽ち、穴、経年といった「欠点」を見つめ直す眼差しは、創造活動に携わるすべての人に、何かしらの示唆を与えてくれるはずです。

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この記事を書いた人

齋藤 翼のアバター 齋藤 翼 木工家

独学で技術を磨いた木工家。
培った知識と経験をもとに、銘木や製作のノウハウをわかりやすくお伝えします。

木軸ペン工房 金杢犀の代表
本と映画とアンティーク家具が好き

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